アイルランドのダブリン大トリニティ・カレッジで学んでいた豊橋技術科学大名誉教授の大呂(おおろ)義雄さん(81)はこの4月、社会高齢学の博士号を取得した。
大呂さんの専攻は「ソーシャル・ジェロントロジー(社会老年学)」で、日本、ダブリン北部、オーストラリア3カ国で高齢者スポーツの取り組みを研究した。
3カ国のスポーツクラブでゴルフや水泳をする高齢者174人に「運動で得たことは?」などと聞き取り調査を行ったところ、スポーツをする高齢者は年を重ねてもスポーツ活動への適性を生き生きと保っていた。
スポーツで美しい風景を見て、外気に触れ、気の合う仲間と楽しい気分になれば、また次の日もスポーツをしようという前向きな気持ちになれる。積極性や社交性が高齢者に作用して「善循環」を起こし、スポーツ参加者に肉体的な健康や精神的な幸福というプラス効果をもたらしていた。
今後1~2年は、社会高齢学センターがあるアイルランド国立大学ゴールウェイ校でポストドックの研究を続け、学問と実践を通して高齢者の健康な長寿と幸福に貢献したいという。
ヒトの老化に関する生物学・医学・社会科学・心理学などを研究する学問は「ジェロントロジー(gerontology、老年学)」と呼ばれる。老年を総合的にとらえる「ソーシャル・ジェロントロジー」は日本ではまだ、なじみが薄い。
日本では認知症など老人医学の分野はかなり進んでいるが、「縦割り行政」の弊害と同じで、高齢者に関する学問は自殺・介護・転倒・生涯スポーツ・生涯学習など別々に扱われている。
「日本は高度高齢化社会で、多くの問題を抱えているのに、ただ介護医療にだけ目が向けられているのは残念です。平均して定年後20年以上も人生が残っているのに、多くの高齢者がその貴重な時間を無為に過ごしている。活動をやめるのは生きるのをやめることです」と大呂さんは言う。
大呂さんは豊橋技科大学や愛知大学で教授として英語を教えていた。72歳で定年退職後、社会高齢学を知り、2006年、単身アイルランドへ。
同年創設されたゴールウェイ校のアイルランド社会高齢学センターで最優秀学生としてディプロマ(学位)コースを修了。その後、ダブリン大学トリニティー・カレッジに移り、「高齢者のスポーツ活動」をテーマに5年間研究を続けていた。
これまでの過去最高齢は122歳。1840年以降、平均寿命は毎年3カ月のペースで延び続けている。200年前に比べて平均寿命は約2倍。今後50年のうちに100歳まで生きるのが当たり前の時代がやってくるといわれている。
世界保健機関(WHO)によると世界の平均寿命は2012年時点で70歳(1990年時点では64歳)。日本は84歳(同79歳)で世界一だ。
厚生労働省の統計では日本の100歳以上は1970年には310人、90年には3298人、2010年には4万4449人、30年には27万3千人、50年には68万3千人と予測されている。
英ニューカッスル大学のトム・カークウッド教授はニューカッスル地方の85歳以上の高齢者を調査したところ、80%はケアをほとんど必要としていなかった。しかし、残り20%は日常生活で介護や24時間ケアを必要としていた。
カークウッド教授は英メディアに対して「人間にはダメージを回復し、健康を維持する機能が備わっており、平均寿命に天井はない」と語っている。ストレスの要因を減らし、適度な食事、規則正しい生活習慣を取り入れることが長生きの秘訣だそうだ。