水着で街歩き 

神戸・須磨海岸の周辺で、一部海水浴客のマナーの悪さに地元の商店などが頭を痛めている。水着姿で街中を堂々と歩き、店や駅に入って水浸しにしたり、トイレで着替えて砂だらけにしたり…。夏のかき入れ時期だけに、客への注意をためらう声も聞かれるが、立ち入り拒否など厳しい態度で臨む店も出てきた。JR須磨駅では、障害者用トイレに鍵をかける事態にまで発展している。(初鹿野俊、藤村有希子)

 
 
 7月の暑い日。JR須磨駅南側の海岸は多くの海水浴客でにぎわっていた。その反対側、駅北側の飲食店などが並ぶ通りに出る。すると、わずかな時間に、海水パンツやビキニのままで歩く多くの男女とすれ違った。年配の人もいる。
 
 客待ちしていたタクシー運転手(68)は「毎年見る光景。常識としてどうやろうか」と首をかしげた。水着のままタクシーに乗り込もうとする客もいるという。
 
 商店主らも苦々しい表情だ。コンビニ店の女性店長は「トイレも店内も砂まみれ。でも、この時期は飲み物がよく売れるし…」と、注意したくてもできない様子。近くで総菜店を営む女性(74)は「地元の子たちじゃないから、声をかけるのが怖い」と打ち明けた。
 
 一方、駅前の酒店は玄関先に「水着・砂まみれ・水びたし お断りします」と書いた札を掲げた。それでも、海パン姿の男性たちがお構いなしに入ってくる。女性店員(38)は「砂まみれのお客さんには『砂を払ってから入って』と言いますが…」とため息をつく。近くのドーナツ店のトイレには「ここは更衣室ではありません!」「(着替えを)発見したら、ただちにお帰りいただきます」との張り紙があった。
 
 “最後の手段”に出たのがJR須磨駅。改札内にある多目的トイレは、車いす利用者らが使えるようにスペースが広く、着替えに使う客が後を絶たなかった。そのため、同駅は今夏からトイレの外側に鍵をかけ、利用したい人は駅員に申し出てもらうことにした。
 
 同駅は「このままでは、本来このトイレを使うべきお客さまが利用できない」と理解を求めている。
 
 
【海水浴客の声は‐商売だから仕方ない/うろつくのおかしい】 
 
 海水浴場近くの街中を水着で歩いたり、店に入ったりすることについてどう考えるか。当の海水浴客に聞いてみた。
 
 「私、ペア水着で街を歩けるよ。それも受け入れての商売ちゃうの」とあっけらかんと答えたのは、尼崎市のアルバイト女性(32)。「客が来なかったら、店も売り上げが下がるでしょ」。隣にいた母親(55)も「夏の期間だけは、仕方ないのでは」と同調した。
 
 大阪大学工学部1年の男子学生(18)は「商店街に水着の人が目立つなら、自分も水着で行くかも」。周りに合わせるタイプのようだ。一方、同級生の男子学生(18)は「僕は行かない。水浸しで店内に入られると、ほかの客にも迷惑が掛かるでしょ」ときっぱり。
 
 友人と遊びに来ていた川西市の高校3年の男子生徒(18)は「水着は恥ずかしいから、何か羽織るかな。自分が店で働いていたら、水着の客が来ると嫌だと思うし」。
 
 専門学校に通う大阪市の女性(18)は「水着に着替える前に買い物して、その後に海に来るべき。水着で街をうろうろするのはおかしいよね」と言い切った。